令和6年度施政方針(令和6年2月阿部市長)

ツイッターでツイート
フェイスブックでシェア

ページ番号1014083  更新日 2024年2月27日

印刷大きな文字で印刷

 (注)本文書は筆記録ではございませんので、当日、市長が述べた文言と若干の相違点があります。

 令和6年度の市政運営について、所信を申し述べ、主権者である市民の皆さんと市議会の皆さんのご理解とご協力を賜りたいと存じます。

第1 はじめに

自然災害の激甚化と地球沸騰化

 東日本大震災発災から13年目の3月を迎えます。年明け早々には、能登半島地震が発生し、積雪など厳しい環境の中、地域によっては、集落ごと、施設ごと、小・中学生だけなど、緊急的な避難を余儀なくされ、今なお厳しい避難生活を送っている方が多くいらっしゃいます。発災後に災害関連死でお亡くなりになられた方を含め、被災された皆様方に改めて心からお悔やみとお見舞いを申し上げます。
 3.11以降、複数回にわたる大きな揺れに見舞われた熊本地震など、震度6弱以上の地震は31回も発生しています。日本は、歴史上、数多くの地震、噴火、津波、風水害などの自然災害に見舞われてきました。東京は、30年以内に首都直下型震災が発生すると言われてからも、かなりの月日が経ち、関東大震災からはもう101年です。震災を経験するたびに、私たちは多くの知見と教訓を得てきました。今回は、半島という地形の特殊性、住宅の耐震性、さらに交通網が遮断された中での水、トイレ、地域医療などの問題が大きくクローズアップされています。
 また、昨年は、約3年続いた新型コロナウイルス感染症が五類へと移行し、市内では、どんど焼きや各種団体の新年会も復活するなど、コロナ禍前の日常に戻ってきたことを実感する日々となりました。その一方で、長期化するウクライナ戦争、そのことに端を発したエネルギー危機、パレスチナのガザではジェノサイドとも呼ぶべき国際法を無視した異常な戦闘行為に、国際社会が成す術のない最悪の事態となっています。
 さらに、国連のグテーレス事務総長が「既に地球沸騰化の時代に入った」と話されるように、猛暑、超巨大台風、洪水など気候危機による激甚化した災害が世界各地で多発しています。大規模な山火事、氷河の融解さらには感染症などとの複合災害も想定しなければなりません。

人口減少とDX

 民間の経済人や研究者などの有識者で構成される人口戦略会議は、日本の人口を2100年に8,000万人で安定させるとの「人口ビジョン2100」を明らかにしました。国立社会保障・人口問題研究所は同年には6,300万人と推計していますが、この人口ビジョンでは、若年世代の所得向上と雇用改善、共働き・共育ての実現など数々の対策を提案しています。
 既に人口減少の影響は社会の随所に表れています。2024年問題と言われている運輸、建設等の年間時間外労働時間の上限規制は、新たな雇用確保に向けた働き方改革ですが、背景には、団塊の世代が担ってきた長時間労働を踏襲していては、若年労働力の確保が危ういという深刻な業界事情があります。
 地方自治体も例外ではありません。高齢化、過疎化、公共交通網の縮小、店舗の減少などの課題に対処しながら、災害などのいざという時に備えた対策も想定しなければなりません。デジタル化やキャッシュレス化、さらにはAI活用による自治体行政の効率化などのDXを進め、時代にあった市民サービスの向上とマンパワーの振り向け方の転換を目指します。そのためには、共同調達や共同利用という手法を活用した広域でのプロジェクトや手続きの標準化など自治体の壁を越えた取組みも必須です。

「コモンの再生」と地域協創

 岸田首相は、行き過ぎた新自由主義的な経済政策を改め、「成長と分配の好循環」を実現するとし、新しい資本主義への転換を訴えましたが、その実現は容易ではありません。一方で、このところ、公園、水道、公共交通といった生活や産業に必要な地域社会に属する社会的資本に関連して「コモン(共同体)の再生」という言葉を聞くようになりました。
 既に海外では、安全や水は、ただでは手に入りません。国内でも水源地、水道など外的資本による買収や民営化といった動きが出現しています。人口減少の中、市民、自治体が改めてこれら社会的資本をいかに持続可能なものとしていくかといった観点から分析し、組み立て直していく必要があります。
 この4年間、「市民・地域と行政との新たな協働のしくみづくり」に取り組み、自治推進委員会での議論、モデルエリアでの実践を通して、地域コミュニティの目指すべき方向性を定めました。これまでの参画・協働をさらに前に進め、多世代にわたる参画、多分野における協働を創出し、より多くの市民がゆるやかにつながり合えるコミュニティが生まれ、広がることで、地域課題の解決、新たなまちの魅力や価値が創造されること、これを「協創」と呼んでいます。
 これまでの「10の活動をする1人」から「1の活動をする10人」への転換です。
 この「協創」を実現するための、しくみやしかけが「地域協創」です。「協創」に向けて、「地域協創」を進めていくことを、本市のまちづくりを進めるうえでの最高規範である「多摩市自治基本条例」に盛り込みます。そして、本年は自治基本条例が施行されて20年の節目の年です。これを契機に、改めて条例の精神を大切に、市民主権のまちづくりを進めてまいります。
 その先に、地域主権による「コモン(共同体)の再生」の姿が見えてきます。

くらしと市民生活

 厚生労働省の発表によれば、労働者一人当たりの現金給与総額(名目賃金)に物価変動を反映させた実質賃金は20カ月以上の連続減少となっています。名目賃金は過去最長の23カ月以上の連続増加となっていますが、賃金の伸びが物価の上昇に追いついてない状況が続いています。家計においても厳しい状況が続いています。いわゆる春闘での労働組合サイドからの大幅賃上げの声だけでなく、政府からも強いトーンで底上げを求める声が上がっています。いまこそ、社会全体で工夫を凝らし、物価上昇を上回る賃金アップをはかる時です。
 市としても、可処分所得を下支えするために国が進める個人住民税の定額減税などについて適切に対応していきます。
 少子化対策については、若い人たちの雇用や生活などの基盤を支援するとともに、夢や希望を持てる社会を構築していくことで、子どもを産み、育てることに希望を持つことができるよう、国、東京都と連携しながらこれまで以上に強い覚悟を持って取り組んでいきます。
 さらに、地域共生社会を実現していくためには、多様な人材を育成していく仕組み作りも大切です。学び直しへの支援を通して、国や東京都等とも連携しながら、年功序列といった従来の枠組みを脱し、雇用の流動化にも対応していかなければなりません。

旧統一教会による土地取得問題

 1年前の第1回定例会で明らかとなった旧統一教会の土地取得問題については、私たちが行った文部科学省、東京都、東京都市長会などへの働きかけや教団本部への申し入れだけでなく、市民団体による街頭やWebでの署名活動、さらには市議会の総意による決議と議長による議会を代表しての教団本部への申し入れなど、市民の皆さん、議会そして行政の三者が、それぞれの立場ででき得る行動をとり、対応してきました。
 私たちは「旧統一教会の実態の把握とその状況に応じた適切な対応」について強く申し上げてきましたが、国が解散命令請求を裁判所に行ったことは、被害者の声を受け止め、広範かつ重大な被害が生じていることを確認した結果であり、適切に対応していただいたものと受け止めています。引き続き、今後の動向を注視し、国、東京都、隣接する学校法人と緊密な連携をとり、対処していきます。

第2 市政運営の基本的な考え方

1 地域で未来に希望を持ち続けることのできるまちを目指して

 令和6年度は、昨年11月に策定した第六次総合計画に本格的に取り組む最初の年度です。4月には組織改正を行い、総合計画を推進するための体制を整備しますが、令和5年度を振り返っても、予想を超えたスピードで状況が変化し、予期せぬ様々な問題への対応は終わることはありません。令和6年度に控えている各種計画の策定・改定を通じて、しっかりと基盤を仕上げていくとともに、状況の変化に柔軟に対応すること、既存の枠組みにとらわれず、状況によっては、走りながらブラッシュアップしていくという気概をもって、未来に向けて基盤をつくり、新たな一歩を踏み出す年度として取り組みます。
 「つながり 支え 認め合い いきいきと かがやけるまち 多摩」という将来都市像を目指し、多世代がゆるやかにつながりながら、地域で未来に希望を持ち続けることのできるまちに向けて取り組んでいきます。

2 分野を横断して重点的に取り組む事項

 第六次総合計画では、分野横断的に取り組むべき3つの重点テーマを定めました。これらに対しては、特に庁内一丸となって取組みを進めます。また、令和5年4月に施行されたこども基本法の基本理念とも大きく重なる、本市がこれまで進めてきたこども若者政策をさらに発展させる形で積極的に取り組みます。このほか、物価高騰対策にも取り組んでいきます。

(1)環境との共生

 冒頭で地球沸騰化について触れましたが、地球環境の問題はもはや一刻の猶予もありません。「第3次多摩市みどりと環境基本計画」の策定も踏まえ、脱炭素、資源循環をはじめ地球環境への負荷を軽減しながら、地球沸騰化への適応強化を図ります。
 具体的には、総合体育館の照明をLED化するためESCO事業を開始するほか、ナトリウム灯の街路灯がある4路線でLED化を進めます。公用車についても電気自動車への入替えを進めます。市役所本庁舎の建替基本計画の策定にあたっては、省エネルギー化や再生可能エネルギーの活用によるZEB化を検討していきます。災害用に備蓄している保存水についても、容器をペットボトルからアルミ缶に変更し、定期的な入替え時のプラスチックの使用を削減します。テニスコートのマイクロプラスチック対策として、全国でも初となるガイドラインを策定するとともに、引き続き企業・市民と連携した取組みを行っていきます。都市農業推進事業においては、プラスチック排出量の削減やごみの排出抑制によるCO2削減を図るため、生分解性マルチフィルムや誘因・結束用光分解テープなど、環境に配慮した農業資材を使用する農家を支援します。また、学校給食センターにおいては、調理残さ(野菜くず)や給食残さ(食べ残し)といった生ごみのたい肥化リサイクルを行い、資源循環の取組みを進めます。このほか、小学校体育館への空調設置を検討するため、熱負荷等環境調査を行うなど、全庁一丸となってその取組みを推進します。

(2)健幸まちづくりの推進

 このたび、第六次総合計画の策定に合わせて、平成29年3月に策定した「健幸まちづくり基本方針」を、約7年ぶりに改定しました。「世代の多様性があり、市民の誰もが生涯を通じて「健幸」である都市の実現」という方向性を引き継ぎながら、今後は健幸まちづくりの取組みを広げるだけでなく、深度化し、庁内はもちろん外部関係者等との連携も進めていく段階にあるとの認識のもと、取組みを進めていきます。
 具体的には、歯と口腔の健康は全身の健康と深くつながり、健康寿命の延伸にも寄与することから、「(仮称)多摩市歯科口腔保健推進条例」について、この秋の条例制定を目指し、検討を進めるとともに、いつまでもおいしく食べ、誰もが笑顔でいられるまちを目指し、歯科口腔保健にかかる啓発を進めます。また、これまで多摩市版地域包括ケアシステム構築に向けた取組みを進めてきた中で明らかになった諸課題の解決に向けて、重層的支援体制整備事業として、多機関協働事業、アウトリーチ等を通じた継続的支援事業、参加支援事業を実施します。さらに、これに併せて第2層生活支援体制整備事業を地域包括支援センターに委託することで、地域での支え合いの仕組みを充実させていきます。また、健康無関心層へ働きかける仕組みの構築に向けて、アプリを活用し、ウォーキング等の運動や市のイベント等への参加に対しポイントを付与し、一定のポイントを貯めた方に、抽選でインセンティブを与える取組みをモデル事業として実施します。このほか、多摩モノレール・多摩センター駅のトイレのバリアフリー化に対して補助することにより、高齢者や障がい者を含むすべての市民が円滑に社会参加できる公共交通機関の利用環境を整備し、福祉のまちづくりを推進します。なお、健康寿命の長い本市においても、高齢者のうち半数以上が後期高齢者となっています。年齢を重ねるなかで、人生の最期まで自分らしくいきいきとくらし続けていただくため、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)を引き続き普及啓発していくともに、最期を迎えられた際にご遺族に寄り添い、市役所における手続きをワンストップで行える「おくやみ窓口」開設に向けて、準備を進めていきます。

(3)活力・にぎわいの創出

 現在、「都市計画マスタープラン」の改定や「(仮称)産業振興マスタープラン」の策定を通じ、これからの社会構造の変化に対応した方向性をとりまとめている過程にあります。多摩都市モノレールの町田方面延伸についても、町田市とともに進めている「沿線まちづくり構想」策定の動きを受け、本市のポテンシャルにも注目が集まりつつあります。ニュータウン再生やまちの賑わい創出、地域共生社会の実現に向けた取組みを積極的に進めていくことで地域経済の発展や市民生活の向上につなげていきます。また、若い世代が結婚・出産・子育ての希望をかなえ、安心して子どもを育てることができる環境づくりを進めるとともに、まちの魅力を高め、これを発信していきます。
 具体的には、市内主要3駅周辺地区の活性化の推進のうち、多摩センター駅周辺地区では、昨年の中央図書館のオープンに続き、多摩中央公園の改修事業も令和7年4月のリニューアルオープンに向けて進めていきます。併せて『「まちづくり」から「まちづかい」へ』を起点に取り組んでいる多摩センターわくわくプロジェクトは、最終年度として実施、総括して、「将来ビジョン」「まちづくり方針」「第三期都市再生整備計画」の策定を進めるとともに、地域の活性化団体と連携してにぎわいを創出します。聖蹟桜ヶ丘駅周辺地区では、昨年、地元企業・商店会を中心とした一般社団法人聖蹟桜ヶ丘エリアマネジメントが設立されました。この団体の活動を支援し、水辺空間を活かしたまちづくりを進め、川から街への賑わいづくりを公民連携により取り組んでいきます。永山駅周辺地区では、公的賃貸住宅や日本医科大学多摩永山病院の建替えを契機に、2040年代を見据えたまちの再構築について、東京都とも連携して、地権者との勉強会や東京都による「諏訪・永山再生プロジェクト検討会議」において検討しているところであり、引き続き商業・業務、文化・交流などの多様な機能が集積した活力ある拠点の形成を目指して取組みを進めていきます。ニュータウン再生については、諏訪・永山地区まちづくり計画、愛宕・貝取・豊ヶ丘地区等まちづくり計画の各リーディングプロジェクトのほか、南多摩尾根幹線沿道の土地利用転換に向けた検討など、新たな再生方針の策定に動き出している東京都と連携して進めていきます。また、シティセールスについては、情報発信戦略及びシティセールス戦略に基づく取組みを進め、わがまち意識の醸成や市外への情報発信などを推進します。新たな取組みとして、Instagramでのインフルエンサーによる情報拡散を行い、プロモーションを実施するほか、昨年開催支援したTAMATAMAフェスティバルのような公民連携による取組みも支援しながら、これまで以上に関係人口づくりを進め、多様な主体と一緒に「くらしに、いつもNEWを。」を体現する多摩市を発信し続けていきます。

(4)子ども・若者政策

 「多摩市子ども・若者の権利を保障し支援と活躍を推進する条例」の理念を踏まえると同時に、少子化対策に集中して取り組みます。
 具体的には、国が制度化を進めている「こども誰でも通園制度(仮称)」の本格実施を見据えた試行的事業に、全国約100自治体のひとつとして、本市も参加するだけでなく、東京都が実施する「多様な他者との関わりの機会の創出事業」に同時進行で取り組みます。令和5年10月から始めた「放課後子ども教室の試行事業」についても、放課後の子どもたちの居場所の多様化と、子育て支援をさらに進める取組みとして通年で実施します。また、子どもたちにとって身近な遊び場でもある公園も重要です。障害の有無に関わらず、子どもたちが安全に遊ぶことができるよう、多摩中央公園改修整備事業で取り組んでいるインクルーシブ遊具導入を他の地域へも広げていくため、大谷戸公園をモデルに遊具の設計等に着手し、インクルーシブな公園環境の実現を目指します。学校においては、不登校対策の一つとして、東愛宕中学校内に不登校または不登校傾向が見られる中学生を対象としたチャレンジクラス「(仮称)あたごspace」の設置を進めます。また、教育委員会と市長部局が連携し、中学校部活動の地域連携・地域クラブ活動への移行に向けた協議会を立ち上げ、教員の働き方改革とともに、持続可能な部活動の実現に向けて取り組んでいきます。このほか、生活保護受給世帯の子どもたちに対しては、昨年の7月から開始したスタディクーポンによる塾費用の補助を引き続き実施し、貧困を理由に学校外学習の機会を失ってしまう子どもたちへの学習支援を行います。さらに保護者の離別などに際し、子の養育費等の取り決めが円滑に交わされるよう、公正証書作成等にかかる費用の支援を行います。また、児童福祉法改正を受け、子ども家庭サポーター派遣事業等に利用勧奨を取り入れ、支援が必要なヤングケアラーを含む子どもと家庭へ支援が届くよう取組みを進めます。8月には、幼稚園・保育所等をはじめ子育て関係団体、児童館が連携・協力して「(仮称)子どもまんなかフェス」を開催し、市内外へ本市の子育て環境の素晴らしさや、充実した子育て支援策を官民一丸となって発信します。
 なお、学校給食費については、東京都が新年度予算で打ち出した公立学校給食費負担軽減事業の内容や経常経費などへの影響を精査しているところであり、今議会中にも市としての対応をお示ししたいと考えています。

(5)物価高騰への取組み

 ロシアによるウクライナ侵攻に端を発した資源価格等の高騰による物価高騰に対しては、この2年間、毎年度10回を超える補正予算を編成し、その中で原油価格・物価高騰対策に取り組んできました。令和6年度予算で物件費が6億円以上増加するなど、市財政に与える影響も大きいところですが、物価高騰に賃金の上昇が追いつかない中で、引き続き、物価高騰対策に取り組みます。
 具体的には、国が進める「新たな経済に向けた給付金・定額減税一体措置」に盛り込まれた住民税均等割のみの課税世帯への給付や子ども加算などに取り組むことに加え、市独自の取組みとして、令和6年度も市内幼児教育・保育施設に対して食材料費、光熱費、燃料費に係る支援を行うほか、商店街が管理する装飾街路灯の電気料金の補助を増額するなど、これまでの本市の取組み実績や国・東京都の取組みとも連動して適宜適切に対応していきます。

3 行財政運営における重点事項

(1)新たな時代に向けたデジタル技術等の活用

 コロナ禍では、オンライン手続きやコンビニ交付の拡充、ウェブ会議や動画活用などの新たな手法の導入・拡充やRPAなどのデジタルツール等を活用した様々な工夫や取組みを進めてきました。アフターコロナになったからコロナ以前の手法に戻すのではなく、こうした変化を活かし、最適な市民サービスを提供していくため、デジタル技術を積極的に活用します。
 具体的には、これまで窓口での納付が必要だった施設使用料について、公共施設予約システム上での支払いが可能となるよう、オンラインキャッシュレス決済を導入します。また、一部の公共施設について、災害時の安否確認や情報収集のための通信インフラとして東京都が推奨するWi-Fi規格であるOpenRoaming対応のWi-Fiを整備し、利用者サービスの向上を図ります。令和5年度から取り組んできた統合型GISについては、道路台帳などでの業務利用を開始し、この3月から市民・事業者等が来庁して図面確認等を行わずに済むように公開を行い、来年度は新たに公園施設情報を統合型GISに追加します。このほか、災害時の情報収集等に資するため災害対策用ドローンを導入します。

(2)アセットマネジメントの推進に向けて

 本市の公共施設は、他市と比較して質・量ともに高い水準にあります。将来にわたって持続可能なまちを実現するためには、公共施設を安心して使い続けられるようにするだけでなく、時代のニーズにあわせて施設が有する機能を再編・最適化することが求められています。本市ではこれまで「多摩市公共施設の見直し方針と行動プログラム」に基づいて計画的に取り組んできましたが、今後は大型施設の建替えや改修が続くことから、令和6年度は、これまでの計画に基づいて行ってきた10年間の取組みを総括し、そのうえで、新たに「(仮称)アセットマネジメント計画」の策定に着手します。

4 持続可能な都市経営

(1)人口減少を見据えた行財政運営

 国や東京都とともに少子化対策に取り組みながらも、一方で今後の人口減少を見据えた行財政運営が求められています。企業の業績が回復してきていることに伴い、大手企業を中心に賃上げが行われていることなどにより市税収入は増加傾向にありますが、ふるさと納税による流出や少子化・高齢化の更なる進行に伴う社会保障関係経費の増加などを踏まえ、先行きが不透明な中においても、迅速、丁寧かつメリハリのある財政運営を進めていきます。
 この厳しい財政状況下においても将来にわたって持続可能な財政構造を構築し、サービス水準と健全性を維持・向上していく必要があることから、DX推進計画も包含した第十次となる行財政改革の計画のもとで取組みを進め、第六次総合計画を下支えしていきます。また、市役所本庁舎建替え後の市民サービスの提供や効率的な業務の進め方への転換を見据え、限られた予算と人財で市政運営を行いながら、事業の必要性や手法の有効性を一から見直すべく、令和5年度に引き続き、事務事業のBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)や窓口業務のBPRの実施、文書のペーパーレス化を進めます。DXを推進していくための基盤は人財育成であり、そのため、DX人財育成のための研修を実施します。また、公民連携の積極的な活用など、職員が既存の概念や手法にとらわれず、失敗を恐れることなくチャレンジする風土を醸成し、新たな発想・仕組みに基づく積極的な取組みを後押ししていきます。

(2)市役所本庁舎の建替えに向けた基本計画の策定

 市役所本庁舎の建替えに向けては、市議会においても特別委員会が設置され、議会機能を含めご議論をいただいているところです。建築費にかかる資材や人件費の高騰など、厳しい社会情勢ではありますが、必要な規模や事業費等について精査するとともに、これからの行政サービスに必要な執務環境や災害時対応のために必要な機能などの検討を進め、令和6年度中に基本計画を取りまとめてまいります。

第3 目指すまちの姿の実現に向けて

 基本構想に定めた「分野別の目指すまちの姿」の実現に向け、基本計画のもと各分野の政策・施策に取り組んでいきます。

政策A 子どもの成長をみんなで支え、ともに生きるまちの実現

 基本計画の政策Aは「子どもの成長をみんなで支え、ともに生きるまちの実現」です。
 令和6年度はこども基本法等の主旨を踏まえて「子ども・子育て支援事業計画」の改定を行い、子ども・子育て支援の取組みを加速していきます。産後ケア事業を拡充し、従来の通所型産後ケアの実施施設を拡充するとともに、新たに宿泊型の産後ケア事業を委託医療機関、助産院で実施します。さらに、東京都と連携して1歳児の育児を応援するために実施しているバースデーサポート事業について、5万円分を増額して子育てギフトを進呈、伴走型相談支援とともに経済的支援の充実に取り組みます。また、虐待等相談支援件数の増加に伴い、子ども家庭支援ワーカーを増員し、支援の充実を図ります。発達支援室による巡回相談事業の巡回対象も従来の幼稚園・保育所に加えて、小学校も対象とすることで、地域全体で障がい児に提供する支援の質を高めていきます。さらに、学校においては、弁護士(学校法務アドバイザー)が、学校で発生する様々な問題について、学校の相談にのり、専門家の立場から助言したり、面談に同席するなどして、保護者等に法的な知見を提供したりする仕組みを整えることで、問題の深刻化を防ぎ、学校だけでは解決が困難な事案への対応力の強化を図ります。また、特別支援教育の更なる推進を図るため、「第三次多摩市特別支援教育推進計画」を策定します。学校給食は、施設の老朽化が進んでいる学校給食センター建替えに向けて、基本計画の策定に着手します。関戸公民館においては、保育室に木のぬくもりのある多摩産材の木製遊具を整備し、保育室遊具の充実を図ります。

政策B 支え合いのなかで、いつまでも安心して暮らせるまちの実現

 政策Bは「支え合いのなかで、いつまでも安心して暮らせるまちの実現」です。
 検討を進めている手話言語条例について、今年12月での条例制定を目指し、来年には条例趣旨と手話理解を促進するためのイベントを、当事者でもある多摩市聴覚障害者協会の皆さんと共催で実施していきます。また、令和2年7月に施行した「多摩市障がい者への差別をなくし共に安心して暮らすことのできるまちづくり条例」に関連して、事業者による合理的配慮の提供の促進を図るための事例集を作成し、広く啓発するとともに、助成金の期限を延長します。令和6年度にスタートする「第9期多摩市高齢者保健福祉計画・介護保険事業計画」に基づき、高齢者が住み慣れた地域で「健幸」に暮らし続けることができるよう、TAMAフレイル予防プロジェクトをはじめとする地域における介護予防活動をさらに推進するとともに、介護保険サービスの適正な運営のため、ケアプラン点検を充実します。高齢者の生活の質を向上するため、高齢者のデジタルデバイド対策も併せて進めます。自殺未遂者支援として関係機関を交えた自殺未遂者支援ネットワーク会議を自殺対策連絡会の中で取り組むなど、自殺対策を推進します。成人保健事業では、国が定める「がん検診実施のための指針」等に準拠し、従来実施していた胃バリウム検診を廃止し、50歳以上の市民を対象とする内視鏡検診に再構築します。併せて胃ABC検査についても対象を40代に拡充します。また、市民の健康づくりに寄与している健康づくり地域推進活動においては、課題である人材の確保に努め、月例ウォーキングをはじめとしたウォーキング活動など、引き続き健康づくり推進員と協働で取組みを進めていきます。予防接種については、新型コロナワクチンの定期接種化への移行を進めるほか、麻疹の接種もれを防ぐため救済対応を実施するなど、市民の健康を守るため、周知を含め確実な事業の実施に努めます。

政策C 地域で学び合い、活動し、交流しているまちの実現

 政策Cは「地域で学び合い、活動し、交流しているまちの実現」です。
 DV防止法の改正や困難な問題を抱える女性への支援に関する法律の施行等の情勢変化に対応するため、「女と男がともに生きる行動計画」の改定に着手します。また、近年、本市においても外国人人口が増加していることなども踏まえ、多文化共生を取り巻く課題や基本的な考え方を整理し、市の様々な多文化共生施策の方向性を明文化するため「多摩市多文化共生推進基本方針」を策定します。ホストタウンを通じてはじまったアイスランド共和国との交流については、市民に広く興味を持ってもらうため、子どもから大人までが楽しめるアイスランド交流イベントを実施するほか、アイスランド写真コンテストを開催し、市内各所で写真展を実施します。
 文化芸術の振興に向けては、令和4年4月に施行した「多摩市みんなの文化芸術条例」に基づき、「文化芸術振興計画」を策定します。図書館に関しては、中央図書館の開館による利用状況の変化や駅前拠点図書館、地域図書館の特性やニーズ等も踏まえ、「多摩市読書活動振興計画」の更新に着手します。このほか、昨年、建物の寄贈を受けた「川井家住宅主屋」は、保存と活用を図るための計画策定に着手します。また、16年ぶりにJ1に復帰した東京ヴェルディを街全体で応援する機運を高めるため、多摩センター地区の街路灯にフラッグを掲出します。
 そして、「協創」の実現に向け、この4月には、市民自治の推進とコミュニティ施策を一体的に推進していくための組織、「協創推進室」を立ち上げます。地域を「支える」「つなぐ」「掘り起こす」という3つの視点のもと、専任スタッフの配置、サポーター制度の導入、地域の中にゆるやかにつながり合えるプラットフォームづくり、地域共助が可視化できるツール導入など、「地域協創のしくみ・しかけ」を本格的に運用していくことで、地域コミュニティを新たな視点と人材で再生していく活動を広げます。
 自治基本条例については、施行20周年を機に、広報、公共施設での展示、セミナーや講座などの開催を通じて、改めてこの条例の重要性を市民の皆さんと共有するとともに、「協創」の実現に向けた機運を高めていきます。

政策D みんながいきいきと働き、集い、活気と魅力あふれるまちの実現

 政策Dは「みんながいきいきと働き、集い、活気と魅力あふれるまちの実現」です。
 長期的な産業振興の方向性を示し、計画的に産業施策を進めていくことを目的として産業全体を網羅した「(仮称)産業振興マスタープラン」を策定します。また、ふるさと納税を活用したクラウドファンディングにより、市内事業者が行う産業振興に資する取組みを支援し、併せて、市が実施する事業についても、資金調達を行います。企業の立地促進においては、今後のまちづくりの方向性を見据え、本市が必要とする機能を含め、企業の誘致を進めていくことを目的として、「多摩市企業立地促進条例」の見直しを行います。観光部門においては、本市の観光の将来像や方向性をまとめた、「(仮称)観光まちづくり基本方針」を策定します。市が事務局を務める観光まちづくり交流協議会では、市内事業者の協力を得ながら「食プロジェクト」に引き続き取り組んでいきます。都市農業の振興では、中間見直しをした「多摩市都市農業振興プラン」に基づき、農業経営の改善・充実や農業後継者の支援など、市内農業者への支援を実施し、農地保全につなげていきます。

政策E みんなが安心して快適に住み続けられるまちの実現

 政策Eは「みんなが安心して快適に住み続けられるまちの実現」です。
 まず、約10年ぶりとなる「都市計画マスタープラン」の改定を行います。10年前と異なり、人口減少を見据えて、用途地域をはじめこれからの都市計画を決定・変更していくための方向性を示すものであり、決定に向けてしっかりと取り組みます。また、都市づくりの分野では、「交通マスタープラン」の改定に着手するほか、「住宅マスタープラン」の改定に先立つ空き家等実態調査なども行います。災害対策では、激甚化、頻発化する豪雨に備え、「(仮称)多摩市総合治水対策方針」の策定に向けて引き続き取り組んでいきます。また、能登半島地震の状況も踏まえ、避難所におけるマンホールトイレの整備に向けた検討を進めるとともに、当面の対応として応急給水栓からトイレに注水を行うためのホースの配備、トラックの荷台に固定して活用する給水タンクをはじめ、電気自動車から外部に電力を取り出すための外部給電器の購入を行います。また、災害発生時に、市からの要請により多摩市社会福祉協議会が災害ボランティアセンターを設置・運営する際に、早期に受援体制を整えることができるよう、災害ボランティア受入れ等のためのシステム導入経費を補助します。このほか、木造住宅耐震化促進事業において、グレーゾーン住宅とも呼ばれる新耐震基準であっても耐震性能の低い木造住宅についても補助対象となるように交付対象を拡大し、住宅の耐震化を進めます。

政策F 地球にやさしく、水とみどりとくらしが調和したまちの実現

 政策Fは「地球にやさしく、水とみどりとくらしが調和したまちの実現」です。
 電気供給契約を通常の電力プランから再エネプランに切り替える場合の電気料金上昇費用の一部を支援する再エネ電力切替協力金制度を創設し、特に個人では太陽光パネルの設置が難しい集合住宅にお住いの方などの再生可能エネルギー由来の電力利用を高め、脱炭素化を促進します。また、まちなかの暑さ対策として、夏のイベント時等にミスト設備をレンタルし、地球温暖化や気候変動適応に資する環境啓発に積極的に取り組む団体に、費用の一部を補助するミスト補助事業を実施します。生物多様性の保全の推進に向けては、市民から生きもの調査隊を募り、国際的なオンラインサービスを活用しながら、市内の動植物生息状況の調査を実施します。また、貴重な自然が残る多摩サービス補助施設における自然観察会を、従来の子どもキャンプに代わり実施します。(仮称)連光寺6丁目農業公園については、開設に向けて基本設計を行うとともに、市民を巻き込んだ試験事業を実施します。また、ごみ減量化推進事業では、今年度の講演会で好評を博した芸能人による出前講演会「あなたの学校に行きますプロジェクト」を実施するほか、食品ロス削減に向けて、市内飲食店に食べきれなかった料理を持ち帰ることのできるMottECO(モッテコ)容器を配布し、啓発を図るなど、市民や事業者を巻き込んだ取組みを進めていきます。

第4 むすびに

 アイスランドとの交流は、年を追うごとに活発になってきました。6月のアイスランドウィークだけでなく、様々な機会に講演会、写真展、本の読み聞かせなどアイスランドを身近に感じる機会が増えてきました。日本と同様、地震、噴火の多い国ですが、温暖化による氷河の融解など危機感を共有しつつ、交流をさらに深めていきます。
 ウクライナそしてガザと世界では依然として大規模な戦闘により、多くの若い人々や子どもたちの命が奪われています。ロシアとイスラエルに対し、即時停戦を強く求めます。世界の多くの人々の願いです。平成25年から毎年、派遣している広島、長崎への「子ども被爆地派遣」は、コロナ禍あるいは台風等で中止となった時もありましたが、回を重ね10年を超えました。平和を語る若い伝道者が確実に育ってきています。本年も、子どもたちとともに被爆地を訪問し、「核なき社会」「戦争のない世界」を祈り、次世代に確かなバトンを繋いでいきます。
 7月に開館一周年を迎える中央図書館は、多くの子どもたち、若い人々で賑わっています。令和6年度中には、100万人の来館者を記録するものと思われます。多摩中央公園の改修工事も進んでいます。聖蹟桜ヶ丘駅から多摩川河川敷へ向かう親水軸となるデッキも「せいせき桜まつり」までには完成する運びです。
 また、この2月、既にJリーグ開幕戦も行われ、復帰第一戦として、東京ヴェルディと横浜F・マリノスとによる好カードの試合も行われました。16年ぶりにJ1リーグに復帰した東京ヴェルディをさらに応援していきましょう。
 第六次多摩市総合計画の将来都市像「つながり 支え 認め合い いきいきと かがやけるまち 多摩」を各政策の共通目標にしっかり据えて、市民主権のまちづくりをさらに進めていきます。そのためにも、公務員としての矜持と倫理観を持ち、市民に寄り添う、ワークライフバランスと風通しの良い、職場体制を創ります。
 また、国や東京都に対しては、地域の実情などを伝えるだけでなく、基礎自治体の首長として市長会等を通じ、必要な声をあげていきます。
 地球環境、人口減少、少子高齢社会、地域コミュニティ、経済、DXなど、私たちは今、道筋を明確に示すことが困難な時代の中にあります。先人たちが築いてきた我がまち多摩市を、市民をはじめ多様な主体の英知により、次の世代へ引き継げるよう、市議会各位の理解と協力を得ながら、取り組んでまいります。

このページに関するお問い合わせ

企画課 企画調整担当1・2
〒206-8666 東京都多摩市関戸六丁目12番地1
電話番号:042-338-6813 ファクシミリ番号:042-337-7658
電話番号のかけ間違いにご注意ください
お問い合わせは専用フォームをご利用ください。