多摩市自治基本条例施行1周年記念座談会
多摩市自治基本条例は、多摩市にとって最も基本的で大切な条例です。
国の定める決まりを「法律」と言います。
それと同じように、市の定める決まりを「条例」と言います。
「日本国憲法」が日本にとって最も大切であるように、多摩市にとって一番大切な決まりが「多摩市自治基本条例」です。
平成17年8月、多摩市自治基本条例は、誕生1周年を迎えました。この座談会は、多摩市自治基本条例施行1周年を記念して更なるステップアップを目指し、市民・議会・行政からの参加により開催したものです。
座談会のパンフレット
座談会の様子が一括でダウンロードできます。
座談会の参加者
大津山 壽久(おおつやま としひさ)(市民)
条例の策定に携わる。
「これから原石を磨きましょう」
白鳥 光洋(しらとり みつひろ)(市民)
条例の策定推進に携わる。
「市民も熟度を高める必要があります」
檜垣 正已(ひがき まさみ)(市民)
策定後の推進に携わる
「子どものときから慣れ親しむことが大切です」
村松 美花(むらまつ みか)(市民)
市民活動に関わる。
「自分で考えて動いてこそ…」
山田 勝義(やまだ かつよし)(議会)
多摩市議会議長
「声無き声をまちづくりに反映させるには」
渡辺 幸子(わたなべ さちこ)(行政)
多摩市長
「行動の「わ」を広げることが課題です」
座談会
よろしくお願いします。
白鳥
本日は司会を務めさせて頂きます。よろしくお願いします。
今日は、条例ができてからの感想や、条例を活用してどんなまちを作るかを、みなさんでざっくばらんにお話できればと思っています。よろしくお願いします。
私は、大津山さんが代表を務めた「市民自治基本条例をつくる会」(以降「つくる会」)で制定に関わり、今は檜垣さんが委員長を務める自治推進委員会で、条例制定後の自治の推進について関わっています。
大津山
平成11年、第四次総合計画策定にあたり行政の呼びかけに応じて「まちづくり研究会」に入ったのが行政との関わりです。退職したばかりだったので暇つぶしに参加したのが運の尽き(笑)。その後、つくる会を3年半ばかり。
最近はあちこちで自治基本条例を作る動きが盛んで、関係自治体などに呼ばれたり、地域のことやで、結構忙しくしています。
村松
平成9年に多摩市に転居して来ました。小学生と中学生の子どもがいます。子どもに関することや環境についての活動をしています。
条例については、詳しくはわかりませんが、日頃の活動を通して感じている事をお話ししたいと思います。
白鳥
村松さんが参加した市民討論会で、条例に関心を持とう、というような意見も出ていたんですね。
山田
多摩市議会議長を務めています。
生まれは新潟県。昭和51年に、ニュータウンに魅力を感じて都内から越して来て、30年になります。本当にこのまちが大好きで、自分が住んでいるまちを他に誇れるまちにしたいと思っています。
多摩市に来て3年目から、今年で27年議員を務めさせていただいています。多摩市は行政に関心のある人が多く、地域や行政みんなで手作りのまちづくりができる市だな、と、感じています。
檜垣
昭和の終わりに、千葉の浦安から、仕事でも少し関わりがあった多摩ニュータウンに引っ越して来ました。
多摩市は、緑が多く、社会基盤が整備されています。次は福祉、産業振興に力を入れようというとき、自治基本条例を皆さんで、と言う気運が盛り上がったのは素晴らしいことです。
今、自治推進委員会に参加しています。この委員会で何ができるか、やや当惑しながら進めています。
渡辺
多摩市職員を30年勤め、平成14年4月に多摩市長になりました。
多摩市に住んで33年、多摩ニュータウン開発とともに人口が増加し、多摩市が発展してきた移り変わりを、市民として、職員としてまちづくりに関わってきました。
多摩市自治基本条例ができるまで 市民による原案作り
白鳥
自治基本条例は、市民の作った条例原案を市が更に検討し、議会が更にそれを修正して出来上がりました。こうした制定の過程も、他の自治体から注目されています。
大津山
まず、時代的な背景を見る必要があります。平成10年に特定非営利活動促進法、平成11年に地方分権一括法が成立し、権限が国から地方に移りました。いわゆる垂直分権です。「次は行政から市民に水平に分権を発展させていこうや」、という気運がありました。
自治基本条例を作ろう、と行政の呼びかけに応じた市民が、つくる会に発展させ、1年半をかけて原案を作りました。
行政の全庁的な研修・検討
白鳥
原案完成目前に市長交代という出来事がありました。紆余曲折を経ながらよくできたなあ、というのが実感でしょう。
渡辺
鈴木前市長は、市民原案をそのまま議会に上程するとのことでスタートしました。そのとき職員だった私は「約980人の職員の中で十分に議論されないと、条例ができても生きないのではないか」と問題意識を持っていました。
市長選に出ることになり、5人の市長候補者の公開討論会が開催されました。そのとき「市民原案のまま議会に上程しますか」と聞かれ、他の候補は皆〇(マル)でしたが、私は、そういう理由で△(サンカク)と答えました。
4月に市長に当選し、6月につくる会から原案の提出をいただきました。そして夏から行政での本格的な検討にはいりました。
大津山
行政が検討していた1年3ヶ月の間、市民間でかなり噂が飛び、つくる会では皆とても心配していました。
渡辺
私は、「原石は最大限尊重しよう」を基本としながら、この条例に基づいてまちづくりを進めるにあたりどうか」を、市民案を理解することからはじめ、具体的な検討を行いました。
例えば条例の名称は、市民自治基本条例ではなくて自治基本条例、と。そうしてできた素案第1版を、つくる会と全市民に公表しました。
大津山
行政素案を見て「これは大変だ、何とか市民案をまっとうしなければ」と思いました。そこで、パートナーシップ協定に根拠を置いた調整が、行政とつくる会で再開されました。
そこでは「この条例は原石のようなもの。条例として土俵に上げようよ。100%満足するものはできないかもしれない。磨けば光るものにしようよ」と言うのが多くの声だったと思います。
渡辺
つくる会とのやりとりを重ねながら素案を改訂し、素案第5版を行政案として議会に上程しました。
議会…産みの苦しみ
山田
議会では、議会関連の条文は代表者会議で、全体は所管である総務常任委員会で検討しました。
渡辺
議会の修正で一番大きいのが、条例の位置付けを「最高規範」と定めたことだと私は思っています。
市民原案は「最高規範」でしたが、行政案では「最高規範とは憲法」との法解釈で「総合的な規範」としていました。
白鳥
議会の修正案で、市民案に近い形に戻りましたね。
山田
議会でも議論し、法制度の中で市が定めることのできるのは条例なので、「多摩市の定める最高規範」ならば条例の中での最重要、と落ち着きました。行政が提案した条例案を議会が修正することは、過去20数年の議員経験の中で殆どありません。いわば市の憲法という大事な条例を決めるので、議会も本当に慎重になりいろいろな議論がありました。
正直な話、議会も大変でした。原案も修正案も、どちらも過半数に行かず、議会で廃案になるかもしれない、という見込みすらあったのです。市民のみなさんや職員が苦労してここまで築き上げた条例案です。それが議会で廃案になどとなったら大変なことだ、と非常に悩みました。今後、見直し修正はできる、どこかで譲り合わなければいけない、と。
結果的には修正案が通りましたが、全員一致ではなく微妙な数です。みなさんの苦労に比べれば全然大した事はありませんけれど、一緒になって苦労させていただいた、という思いはあります。産みの苦しみでした。成立して本当によかったな、と思っています。
大津山
市民の原案に立って行政との協働作業で、それに議会が加わりました。結果的には、市民と、行政と、議会が協働して条例を作ったと言えます。三者とも悩みながら、ですけど。
条例ができて何が変わったか すぐに変化すること、しないこと
白鳥
こうして誕生した条例で、多摩市は良くなったのでしょうか。
檜垣
条例が出来たからすぐ変わるかと言うと、そうではありません。長い目で見るものと思っています。
大津山
すぐに具体的な結果が出ないのは、自治基本条例のような理念的な条例の持つ性格です。目に見えて変わることは少ないけれど、基本はしっかりしている、で良いのです。
なお、理念だけではなく、市の制度の部分や、市民の参画協働の権利の保証など、具体的な部分もあります。
白鳥
自治基本条例に基づいて市民参画のしくみもできているわけですね。市長としてそこはいかがですか。
渡辺
自治基本条例ができて最も変わっているのは行政ではないかと思っています。マニュアルも作られ、何かあると「自治基本条例に基づいてやっているの?!」というやりとりがあります。
市民には知られていない条例
白鳥
自治基本条例の中で一番長いのは、市民参画の条文です。行政では実施に取組んでいます。でも、多くの市民には知られていないようですね。
渡辺
そうですね。条例施行から1年たった昨年の秋、中学校のPTA役員の皆さんの会で、自治基本条例を知っていますかと伺いました。中学校のPTA役員の皆さんは、たま広報を読み市民活動に興味を持っていらっしゃる方々です。その方たちでも、知っている方は1割弱でした。これが実情です。
自治基本条例があること、それがどういう有効性を持つのかということを伝えるのは、施行した行政執行部の責任と思っています。
白鳥
自治基本条例に基づく実践的な部分が見えると、印象が強まりますね。それが自治推進委員会にも期待されているのでは、という気がします。
大津山
私は、自治推進委員会には、むしろ条例の確認、見直しを期待しています。行政関係者や研究者から私に、部分的な指摘や質問が来ます。その検討をお願いしたい。
条例は自分たちのもの
村松
条例の見直しもいいのですが、その前に、市民が「自分たちの条例だ」と認識することが必要ではないでしょうか。以前、第四次総合計画のワークショップに参加したことがあります。市の計画に関ることができ、意見が反映されることはいいことだなと思いました。
ある委員会に今までになかった公募市民委員枠ができて参加できたことは、大きな喜びでした。
このような市民が参加できる機会は、「自治基本条例に基づくもの」と言われれば、市民も実感できるのではないでしょうか。
市民に見える条例になるには
村松
議会では自治基本条例がどういうことに生かされているか、職員のみなさんが全員自治基本条例を最高規範と意識して仕事をしているか、市民の意見が本当に反映されているのか…。具体的に実感できれば、市民の感覚も変わってくると思います。
白鳥
「市民が意見を表明しても、ただ聞き置かれているだけではないか」、との市民からの懸念は、どこの自治体でも聞きます。自治推進委員会の提言では、計画策定に関わった委員が実施状況を見守る、アフターフォローを提案しています。
檜垣
たくさんの「市民の意見」があります。自分の意見が通ったかということと、複数の意見がどう反映されたかということは、別の面もありますが。とにかく意見がどう反映されているかわからないのが不安や不満の一因でしょうから、まずは情報の公開・共有が重要です。
大津山
わかりにくい理念条例の段階を超えて身近に感じるには、街づくり条例等の個別条例で補強し、有機的に結ぶ事も有効かと思います。今後の課題ですね。
市の外から見た多摩市 市民参画度全国1位、多摩市議会公開度 関東3位
大津山
多摩市は、全国700強の市・区を対象とした昨年度の日経産業消費研究所の調査で、市民参画度が全国1位となりました。条例制定により、市全体のイメージは格段に向上しています。
山田
実は多摩市議会も、外部から高い評価を受けています。関東の200弱の自治体を対象とした議会公開度調査で、多摩市は3位になりました。
私はいろいろな市に視察に行きました。委員会や協議会の傍聴を認めていない自治体、議事録すら作っていない自治体もある中で、多摩市ほど開かれている議会はないと自負しています。
ではなぜ1位でないかというと、テレビ放映と日曜夜間議会を実施していないからです。
テレビ放映は、3月市議会から開始します。現段階では市役所1階での放映とビデオ貸出です。将来はマスメディアでの配信も視野に入れていますが。
夜間・日曜議会は、実施の方向で、現在実施している全国の自治体を調査中です。ただ、傍聴者が増えるのは開始当初のみ、との回答もあります。情報共有の手法も大切ですが、それ以上に中身の充実が重要と考えています。
議会における市民参画
大津山
議会も変わったと思います。昔の議会は「議会軽視!」とか「市民のサポート不要!」という雰囲気がありました。今は「議会も市民参画・協働しないと、ちょっとばかりおいてけぼりをくうかもしれんよ」という具合に。
山田
今、議会では、議会におけるパブリックコメントをどうするか、大きな問題になっています。
例えばタイミングです。3名以上の議員が集まれば、議員提出議案を出すことができます。実施は3人が提案した時点か、議会としてまとまった時点か、などの点です。費用、手法なども問題です。
その中で、ある議員から、議会独自の基本条例・参画条例を作ってみないか、という声も出ています。
白鳥
提案される前の市民参画によるもっと気楽なやりとりが、提案の素材になれば良いのでは、という気もします。
山田
それは行っています。私たち議員は、地域、地元、団体などで直接市民の声を聞く機会がとても多いのです。それを元に提案するのですから、パブリックコメントは二重では、との声もあります。みなさんはどう思われますか?
檜垣
自治推進委員会でも、そういう問題が話題になります。
パブリックコメントなどの市民参画は、個別の事業、予算、問題について行います。それに対して議会では、市全体を総合的に見た判断や審議が求められます。そこはきちんと分けたほうが良いのではないか、と私は思っています。
大津山
行政も議会も、言い難い事はたくさんあり、全般を見て判断すべきときは個別の要望は聞きにくいこともありますね。でも言いにくい事も全部曝け出してそれを毅然として言う責任があります。その方がむしろ共感を得られると思います。お互いの「もたれ合い」が一番まずい。
渡辺
自治基本条例の評価への参画は先進的なことだと思います。自治推進委員会でとりあげていますね。
檜垣
事業の事前評価も考えています。効果が期待できる反面、影響も大きいので検討段階ですが、参考意見として出せれば良いと考えています。
市民参画、協働型評価には、難しさを感じています。新しいことを始めるときはやり易いのです。例えば何かを作るとき、こんな風にしてほしい、こんなものを入れて欲しい、と意見はいくらでも出ます。しかし、廃止、縮小に賛成する人がいるかどうか。そういうときこそ市議会の役割が大きいのではないでしょうか。
山田
議員を選ぶのは市民ですが、選ばれた議員は、主義や党派を超えて「市全体のことを考える」姿勢を貫かなければなりません。セクト(党派、派閥)や地域主義に陥ると、狭いまちづくりになってしまいます。
自治基本条例に基づいた市民参画が進む中、我々議会の責務は更に重大になると感じています。受身ではなく、議会自らが認識も変わらなければいけない、と思います。
要望・要求型から参画協働型に 「私たちのまちの自治」
大津山
自治基本条例の制定は、要望・要求型から参画・協働型への大きな転換を意味しています。
渡辺
前文に「市民が、市民の手で、市民の責任で主体的にまちづくりにかかわることが大切」とありますね。
これを行政が言うと押し付けになります。市民自らが、市民の基点を明快に原案に入れたのは素晴らしいと思います。
大津山
第6条の「自らの発言及び行動に責任を持つ」も市民原案からです。
渡辺
行政職員の中には、過去の要求型住民運動の経験から、「市民参画」に慎重な人がいました。
市民原案の「市民自治」に対して、自立した市民と自立した職員がいっしょに地方自治を創る、との思いから、「私たちのまちの自治」としました。
大津山
最初の行政素案では「市の自治」という表現でした。これはけしからん、「市民自治」に対して「市」ではたまらんよ、と、ある学者に聞いたんです。すると「市民自治だけにこだわって、議会が外されてしまったら困るじゃないか。市全体の自治なのだから、これが一番」と言われました。こんな経緯の中では、「私たちのまちの自治」で良いと思っています。
住民から市民へ
山田
市民参画が多いのは多摩市の良いところです。反面、関心のある人とない人が両極端かな、とも感じます。
私はよく「住民はたくさんいるが市民が少ない」と言います。声無き声、活動できない人の声をどう吸い上げていくかが、議会にも行政にも大きな課題です。
白鳥
大変重要な問題提起ですね。議会との協働とは、市民と議会、市民と議員個人のものがあります。それがうまく行くと良いまちづくりにつながりますが、実際には、市民が納得しないと実現が難しいでしょう。
大津山
自治基本条例が参画協働型への転換と言っても、要望する場面はたくさんあります。行政が専門職としてやって行くべき部分と協働すべき部分の両方があること。なにもかもすべて協働・参画ではない。
同時に、行政が本来しなければならないものまで安易に市民に振るのも、またまずい。充分な市民の議論を前提に、行政、議会、市民それぞれの役割に応じた形で、皆が自治意識を啓発する必要があります。
村松
私も、市民と市と議会が一緒にやるということはどういうことなのかな、と考えています。
市民参画が形だけでは、と感じることがあります。委員会などで、白紙の状態(方針・テーマなどがはっきり提示されないで)で「さあ、市民のみなさんで議論してください」と言われても、自由なようで、何を話すのか、戸惑うことがあります。行政から、きちんと前提(方針・テーマなど)が示されることで、それを元に意見を出し合い、深めていけるのではないでしょうか。
白鳥
前提を知らせるのが結構難しい。白紙からでなければならない、と言う市民もいるからです。だからと言って本当に白紙からなら、1年たってもまとまりません。そこをうまくコーディネートする人がいることが肝心です。
議員の方の経験も技術もおありでしょうから、お力を借りられないでしょうか。
議長
行政主催の市民ワークショップで議員があまり意見を言うのはどうかな、と私は思います。「議員としてではない。市民として発言する」つもりでも、どこまで分けられるだろう、と。
自治基本条例の趣旨に沿い、議員は原則として審議会委員から外れています。審議会に議員がいると、流れを導いてしまうこともありますし。
檜垣
会場 市民の活動と議員の活動を区別しないと。ワークショップなどの個人の意見と、市議会の会派代表としての意見が完全に一致するとは限りません。市民と共に参画することが、肝心の議会活動を制約してしまうこともあり得ます。
大津山
つくる会には、議員は個人的に参加していました。そこでの結論は、「議員は議会という重要な場所がある。各審議会へは議員は参加しない」としました。
議員はよく勉強しています。むしろ市民側が勉強不足です。自治を自覚しながら自己選択、自己決定、自己責任までにたかまらないと。
白鳥
市民が自分で考え、動くことが大切で、市民も熟度を上げる必要があります。サイレントマジョリティが多いのも問題です。それは時間がかかっても一歩一歩前に進めるしかありません。
市民の合意形成を
白鳥
市民参画によるまちづくりとは、突き詰めると、施策の優先順位をどうつけるかを、市民の中でどう合意するか、ということだと思います。これが非常に難しく、議会の中でも悩むところでしょうか。
大津山
市民も、重要な決定に参加する過程で鍛えられて行きます。100%自分の意見だけが通ることはありえない、15万市民の中で出るたくさんの違った意見も受け容れて行こうよ、と。
参画とは何か、市の自治とは何か、と自治論争が展開され、市民の中に浸透するような「しかけ」づくりをしてみてはと思います。例えば条例の改正にあたっての住民投票などもきっかけになるでしょう。
檜垣
自治は市民が自分で動くことが大事ですが、当初は議会や行政が市民の声を取り次ぐ形も必要かと思います。
地縁と知縁のゆるやかなつながり
大津山
私が多摩市で一番好きなのは、半都会的なところです。田舎では、何をしても町中の噂になります。多摩市は、半分はそういうところがあり、半分は自分だけの場所が許されるところ。
渡辺
開発当初、臼井元市長が団地を見回ったとき、住んでいる人が、パッとドアを閉めて閉じこもりました。これではいけない、人とのつながりを作らなければ、と、スポーツ、文化、コミュニティ施設などを整備してコミュニティの醸成に努めて来ました。土地の縁と、趣味や活動でつながる知の縁の両方が大切と認識して来たのが多摩市です。
右肩上がりの時代ではなく、施策の選択と集中が求められる今、ずっと住みやすい多摩市であるために、共助、支えあいがますます大切になります。
大津山
支え合いと言えば、地域に戻る団塊の世代の方のことがよく話題になります。感謝の気持ちで迎え入れるのならいいが、過度な期待はかえって重荷となるでしょう。
白鳥
あまり一生懸命やりすぎると疲れますね。協働とは「一人ひとりができる範囲で、できることを持ち寄ってやる」と言うとわかりやすいでしょう。行動の楽しさが、結果の満足感や達成感につながって行くのが大事です。
大津山
協働の前提は「やる気のある人間が、やる気のない人間を追っかけ回してはいけない。やる気のない人が、やる気のある人の足を引っ張ってはいけない」です。ゆるやかにつながりましょう。
子どもが重要
檜垣
自治基本条例を伝える手段として、副読本を作り学校で教えたらどうでしょう。子どもから保護者に伝わります。それに、子どもは大人になります。
渡辺
なるほど、子どもですね。昨年夏の自治基本条例1周年キャンペーンでは、子ども用のチラシも作りました。
自治基本条例は、10年、20年の中で成果が見える要素があると思います。実施の方向で教育委員会と協議したいです。一部の学校で始めればそれが広がるでしょう。
檜垣
話題になれば浸透しやすいと思います。要は、「自分たちで」まちをつくろうということ、どういう方法があるかということ、です。難しい条例を易しく小学生にも教えられたら良いですね。
子どもが意見を表明する実感を
村松
アンケートなどではなく、子どもが、直接意見を表明できる機会があると良いと思います。
市民討論会でも、そのことが出ました。中学生、高校生なら自分たちで企画したり運営に関わったりすることもできるのではないでしょうか。まちづくりにつながる、子どもが参画できるいろいろな機会があるといいですね。
檜垣
全く同感です。ホームルームで市議会に子どもの要望を提案させたり、模擬市議会をやったりと、訓練は大切です。
誤解を恐れず、わかりやすく
村松
ホームページに子どものコーナーがあると嬉しいですね。今のホームページは、大人でも見てわかりづらいと思います。
大津山
子どもが勉強すると親も一緒になって勉強します。そのためにも、わかりやすく説明できることが必要です。
例えば「『協働とは何か』がよくわからない」などと聞きます。そんなとき、用語を完璧に説明しようとすると、正しいかもしれないが、なじみのない、親しみも持てないものになってしまいます。
乱暴でも、誤解を招くかもしれないけれど「なぁに、難しくないよ、みんなで力を合わせて働くことだよ」、と胸を張って言い切ること。今は横社会ですからね。
檜垣
条例は、内容が良くてもきちんとした文章になると難しいです。簡単明瞭な中身で、子どもも理解できるよう工夫した方が良いかもしれません。
白鳥
「声無き声が多い」のは、分権だ何だ、といいながら、日本が自治に関する取組みや教育をサボっていた裏返しです。我々もそんな教育を受けていないからわからない。
子どもが多摩のまちづくりに関わり、それで多摩に住みたいと思うような、そんなことを進めたいですね。
最後にひとこと
白鳥
それでは、最後に一言ずつ。
山田
自治基本条例は、多摩市が誇れる条例です。市民、行政、議会が力を合わせて推進しましょう。せっかく良いものが宝のもちぐされにならないように。
檜垣
自治基本条例があることが大切なのではなく、どう活用するかが大切です。それぞれの立場で活用できるようにして行きたいと思います。
大津山
協働の展開に当っては、「目的の共有」とか「検証の継続」を絶えずはかることが基本のようです。原石のこの条例を、みんなで磨いて行きましょう。
村松
多摩市は大好きなまちです。市民として条例をどう生かしていくかを考えていきたいと思います。
白鳥
多摩市にはたくさんの計画があるので、その実行性を、どう高めるかが課題だと思います。最後に、市長としてお願いします。
渡辺
今まとめていただいたように、PDCA(計画-実施-評価-反映)のP(計画)の市民参画協働は定着しつつあります。D(実施)の段階での協働の手がかり、方法をわかりやすく情報共有できるよう、4月から市民情報センターを整備します。ぜひご利用ください。
白鳥
楽しい座談会でした。みなさん、ありがとうございました。
参加者紹介(50音順)
大津山壽久
多摩市市民自治基本条例をつくる会元代表。
第四次総合計画まちづくり研究会の参加をきっかけに、多摩市市民自治基本条例をつくる会に参加。解散の平成16年まで代表を務める。現在は近隣自治体、学生等への事例報告、寄稿活動、多摩市公民館運営協議会委員、地域活動など。多摩市在住21年
白鳥 光洋
多摩市自治推進委員会委員
多摩市市民自治基本条例をつくる会委員・運営委員として条例策定に携わりつつ、多摩市交通マスタープラン策定懇談会委員を務める。現在は自治推進委員会委員として自治基本条例に基づく自治の推進に携わる。多摩市在住11年。
檜垣 正已
多摩市自治推進委員会委員長
東京都職員・副知事として多摩市の外側から関わった後、多摩市使用料等審議会、多摩市行財政診断市民委員会等で多摩市の中から市政に関わる。自治会役員などの地域活動、国の審議会委員など。著作に「地方自治法の要点」(学陽書房)など。多摩市在住17年。
村松 美花
主婦。たまごみ会議、冒険遊びを楽しむ会・TAMA、ケンケンガクガクの会メンバー。
多摩市在住9年。
山田 勝義
多摩市議会議長。東京都市議会議長会会長。
多摩市議員歴27年。多摩市在住30年。
渡辺 幸子
多摩市長。
多摩市職員歴30年。多摩市在住33年。
(付録)多摩市自治基本条例ができるまで
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